篆刻は、「木・牙・角・水晶・石・金などに文字などを彫刻し、文書・書画などに押して印(しるし)とするもの。」ということが出来ますが、その使い方や楽しみ方は「印(しるし)」を残す物と目的によって、大きく二分されます。
その二つとは、
A:何らかの表現の作者の「印(しるし)」として。
B:単なる個人の「印(しるし)」として。
ですが、以下にそれぞれの使い方、楽しみ方を分かりやすく解説します。
A:表現の作者の「印(しるし)」として。
◎誰の作品かを判別してもらうための「作者の印」。
書道や絵画(水彩画、墨彩画など)では、趣味で制作して、出来上がったものを自宅に飾るのが楽しみならサインや印が無くても何も問題はありませんが、仲間との発表会、グループ展など小規模でも他の方の作品といっしょの展示される場合は、誰の作品かを判別するためには、何らかのサインや印が必要になります。
この場合には、サインや印の作法や決まりは無いので、自分や仲間という狭い範囲で、その人らしい「印(しるし)」を作品のどこかに残すことで事足ります。手書きのサインだけでも、篆刻として名前だけ、名前の一文字だけ、また好きな言葉や好きな図象の印でも構いません。これが私の「印(しるし)」と決めて、他に示すことで、目的は達成されます。また、それを固定したり、持続したりという必要もありません。自分の「印(しるし)」ですから、いくつあっても、その時の気分や出来栄えで次々に変えてもいいし、それを楽しみにすることも出来るのです。
◎作者の証としての「姓名印」、「雅号印」、「落款印」。
しかし、何でも自由、気ままが許されるのには限度があります。会や教室に参加して、先生の教えを受けることで上達を目指すのなら、メンバーであることをサインや印で示す必要がありますし、そのグループ内で何らかの約束ごとに従う必要も出てきます。最低限、姓名の最低ひと文字でも、「姓名印」を用意する必要があるでしょう。
また、会や教室のなかでは上達するにしたがって雅号を申請し、授与されることがあります。その場合は、その雅号を印にして作品に押すことが当然のこととして求められます。
雅号を印にしたものは「雅号印」ですが、作品にその作者として署名に添えて雅号印を押せば、作品の完成の証として「落款印」と呼ばれます。
落款印は、「姓名」(姓だけ、名だけも可)を白文で、同じ大きさの「雅号(別号)印」を朱文で、その下に押すのが一応の作法とされています。また作品の右上に主に長方形の関防(引首)印を押す3顆(印の数)セットもかつては行われましたが、最近は朱白の2顆セットにこだわらず、また朱、白の決まりにも左右されず、また署名も無し、印ひとつで落款印とすることも無作法でもなく、おかしくも無い時代になりました。簡素、自由、軽みという時代の流れを反映していると考えられます。
書道や水彩画などでは、落款印は作品の紙に直接押すことが出来ますが、油絵でも工夫次第では篆刻を生かすことができます。たとえば、和紙に押して周りをちぎって貼ることも可能です。
B:個人の「印(しるし)」として。
◎書道や絵画など、特にアートや表現をしていない方でも、自分の「印(しるし)」としての篆刻を持つことは、大いに意味のあることです。手紙やハガキという、他者とのコミュニケーションに生かせるだけでなく、自分自身、自分だけのアイデンティティーとなるからです。
以下に個人の「印(しるし)」としての篆刻の使い方、楽しみ方をご紹介します。
① 持ち物に押す。
自分の持ち物である、ノートや本などに、自分の名前や好きな図象が刻まれた篆刻を押すのが、もっとも基本的な使い方で、所有者を個性的に知らしめる行為です。会社などでは、シャチハタの名字印を使うことで最低限の目的は済ませられますが、プライベートでは自分の趣味や好みを反映させた篆刻をオーダーして、愛用することが望まれます。個人的に所有者を示すのであれば、「姓名印」でなくても、自分の好きな言葉や図象でもその目的はかなえられますので、この篆刻は「雅印」とか「遊印」と呼ばれることがあります。
また、自分の本に所有者としての印を残す篆刻は、ずい分昔から「蔵書印」というジャンルを生み出し、洋の東西でそれぞれに発展進化し、愛好家、収集家もいます。
② 手紙、ハガキ、カードなどに押す。
他人とのコミュニケーションに使う篆刻で、もっとも一般的なのは、便りの文末に押す紅一点の印影でしょう。篆刻が無いときと、押したときを見比べれば一目瞭然、鮮やかな印象が相手に伝わります。
ハガキには絵ハガキがありますが、あらかじめ何かのメッセージをデザインしたグリーティングカードのようなものもあり、それに手書きのコメントを書き込み、なおかつオリジナルの篆刻(印)が押されていたら、いっそう心のこもったカードになります。
最近は多彩な色がそろったカラーのインクパッドもあるので、同じ篆刻でも、その時の気持ちにそった色で楽しむことが出来ます。
結婚式や披露宴の招待状にも、お二人の名前の篆刻がカラースタンプで押されているのも、なかなか華やかで心が弾みます。
③ 封筒の「封印」として押す。
お便りの文末に、署名に添えて押すばかりでなく、その便箋を入れた封筒のベロの部分に押すのは「封緘」と呼ばれ、「緘」という文字だけのものが文具店にはありますが、「龍虎&緘」などユニークなものを特注する人もあります。姓名の一文字でも、お好きな図象でも、個性的な篆刻を押せば雅味のある「封緘」になって、差出人の人柄がしのばれることでしょう。
④ シールにする。
お好きな篆刻を和紙に押して、手でちぎると、風雅な手製シールが出来上がります。それを便箋、ハガキ、封緘にと、いろいろな使い道で貼って楽しむことができます。
また、最近は印影を画像にすることで、いろいろな大きさのシールにすることも可能になりました。
⑤ メールに挿入する。
篆刻を画像にしてパソコンやスマートフォンに保存すると、メールの差出人でテキストだけではなく、篆刻の画像を挿入すれば、篆刻を押したような効果があります。味気ないメールが、人肌の雰囲気に生まれ変わります。
※篆刻の使い方、楽しみ方は無限大。
篆刻を押すことなど考えられない油絵にも、紙に押して、ちぎって貼れば落款印になるように、せっかくオリジナルの個性あふれる篆刻(雅印、姓名印、落款印、遊印)を手に入れたなら、固定観念にとらわれず、頭を柔らかくして、篆刻が生かせるところを見つけて、大いに楽しんでください。 ///