篆刻の作り方。

1:「何を、どんな石に彫るか」を決める。
〇まず、どんな篆刻を作るかを決めます。たとえば「名字の『田と中』二文字を23ミリ角の石に、赤い文字(朱文)で彫る」などと決めることが、篆刻作りのスタートです。
〇彫るのは文字ばかりでなく、年賀状用の干支や楽しいイラストなどでも構いません。
〇また彫る素材は石が一般的ですが木、竹、象牙、陶、ガラス、ゴムでも、素材に応じた彫る道具(彫刻刀やルーターなど)を選んで使えば可能です。

2: 篆書体の資料を用意する。
〇篆刻は一般的には篆書体の文字を印にします。篆書体は、甲骨、金文、小篆、印篆など時代や用途で書体が異なるので、必要最低限の字典や資料は必要です。
〇楽篆堂が使う資料は5種類ほどですが、最低でも、①文字の成り立ちを知るための白川静著『字統』(平凡社)と、②各書体と作家の作例が両方載った簡易版の蓑毛政雄編『必携 篆書印譜辞典』(柏書房)くらいは手元に置いて、随時活用したいものです。

3:彫りたいデザインを方眼紙でまとめる。
2021928162043.jpg
〇多くの篆刻教室では、2面の硯で黒い墨と朱墨をすり、筆で厚紙に塗って印稿(原稿)を作るようですが、とにかく手間がかかります。この時、朱墨で赤い部分を明示するのですが、多少の経験を積めば、白黒の原稿でも、どこが赤くなるかは判ります。
〇そこで楽篆堂は、印のデザインは紙の上で行い、それを印面に転写しています。紙は5ミリか1センチの方眼紙に石の実寸で、または石が小さいときは拡大して、まず鉛筆であれこれデザインし、決まったものを黒の水性サインペン(楽篆堂は0.1ミリ、三菱の<PIN>)で濃く塗って清書します。
〇方眼紙だと、不定形の自然石でも、センターをしっかり決めることができます。

4:石の印面を紙ヤスリで磨く。
2021928162130.jpg
〇篆刻にふさわしい石は、定番の青田石、巴林石、寿山石などに、最近は遼寧丹凍緑石、 青海彩凍石、肖山紅石などが加わって何種類もあり、それぞれに「切れ味」「やわらかさ」「細工度」「粘り度」が違いますので、自分に合った印材を選んでください。
〇ほとんどの印材は印面以外きれいに磨かれています。(石によっては、印材保護のためにワックスを塗ったものがあります。熱湯のなかに漬けるとすぐ落ちますが、面倒なときはスプレーの<シールはがし>が便利です。)印面だけを磨かずに売っているのは、石の性質を知るために印面に刃を当てることが許されているからですが、日本ではあまり行われていないようです。
〇彫る前に欠かせない準備として、印を押したとき印泥がムラなく均一になるよう、紙ヤスリで印面を平らにします。紙ヤスリは平らな板ガラスの上で使います。篆刻用には、単なる紙ヤスリでなく、耐水ペーパーを使うことが多いのですが、これはペーパーを濡らすことでガラスに密着して平らになり、なおかつ細かな粉も舞わないからだと思いますが、慣れれば水なしでもガラスに密着させてことは出来ます。
〇印面を磨く耐水ペーパーは、まず粗い100番で凸凹を無くし、やや細かな400番で仕上げます。それ以上細かいと、紙と印の間で油である印泥が滑るようで、お勧めしません。
〇印面磨きにはその2種類あれば十分ですが、もっと細かな1500番、3000番なら石をピカピカに磨くことも可能です。

5:デザインを印面に転写する。
2021928162225.jpg
〇清書したデザインはトナー式コピー機で原稿の白黒コピーをとって、印面にはマニキュアの除光液で転写する方法をお勧めしています。コピー機は近所のコンビニにありますし、相当細かく複雑なデザインでもかなり忠実に印面に写せるからです。また、コピー機なら微妙な拡大縮小も自在に出来ます。
〇マニキュアの除光液の代わりに黄色やオレンジのマジックインクでも可能なようです。
〇この他にも、薄くて丈夫な雁皮紙に墨で印稿を書き、裏から水で濡らして印面に写すとか、印面にローソクなどを塗って、紙に書いた濃い鉛筆のデザインを裏からこすって写すなど、いろいろな転写法がネット上にもありますので、試しながら自分に最適な方法を探してください。

6:印稿を転写した印面を印刀で彫る。
202192816236.jpg
〇楽篆堂が使う印刀は、大きな7センチ角の石でも、8ミリ角の小さな石でも、「関鍛冶・濃州兼松作の篆刻用印刀、幅4ミリの角型両刃」の1本だけです。
〇高価な専門家用は鋼と軟鋼を合わせたものですが、一般用の鋼のみでも横着をせず研げば、中国製の合金ではない切れ味が得られます。印刀用の水を使う砥石は面倒なので、グラインダーのバフで小まめに磨いています。
〇彫り方にもいくつか方法がありますが、楽篆堂は朱文でも白文でも、印刀を鉛筆のように持って、引いて彫りますし、篆刻教室の生徒さんにもこの彫り方を勧めています。引いて彫る方が細かな部分にも対応しやすいし、押すとダイナミックな線が出ますが、印刀がコントロールしにくく、暴走することがあるからです。(引くのは苦手、押すしか出来ないという方も、それでまったく問題はありません)
〇「どこから彫るのか?」と聞かれることがありますが、どこからでも自由です。ただ、行き当たりばったりで彫ると、自分が作品のどの部分を彫っているのかが分からなくなるので、基本的には書き順通りがいいでしょう。
〇朱文の場合は、枠と中の文字がありますが、楽篆堂は中の文字を先に丁寧に彫り、枠は後にして、文字に応じて臨機応変な枠にしています。

7:試し押しと補刀。
2021928162349.jpg
〇全体が彫れたところで、古歯ブラシでよく掃除して、印泥をつけて試し押しをします。試し押しで気に食わないところを直すのを補刀といいます。何回も補刀と試し押しを入念に繰り返す人もいますし、補刀は出来るだけ少なくして瞬発と即興性を尊ぶ人もいます。創作である以上、どちらも正しいと思います。
2021928162450.jpg
〇「彫る深さは?」という質問もあります。印泥をたっぷり付けても彫り残しが紙に付かなければいいので、やたらに深く彫ることもありません。ただし、プロとして注文を受けるとか、プレゼントする場合は彫り残しの処理はきれいにするに越したことはありません。

8:側款を彫って、出来上がり。
2021928162538.jpg
〇印面が彫りあがったら、側款を彫ります。彫る場所は、印を持った時に見える面で、右利きなら石を真上から見た左側面になります。
〇側款の彫り方は、縦画は上からですが、横角は筆文字と逆に右から彫るなど、多少の練習が必要です。中国の篆刻家の側款は、それ自体が作品であり、印譜(作品集)には印面とともに側款の拓を添えていますが、楽篆堂は印面の文字と作者の名前など、必要最小限にしています。

9:贈る相手には「為書き」を。
2021928162648.jpg
〇文字などを彫った石を誰かに差し上げても、印面は逆文字ですし、篆書体なら余計に読めないことが多いので、楽篆堂は半紙半分の為書きを添えています。
〇真ん中に印影を、右上には「為〇〇様」と書き、印影の下には文字の意味や語源を、左には「楽篆堂 田中快旺刻」として、関防(引首)印、落款印で花を添えます。

10:「袴」ではなく「袋」に入れて。
2021928162835.jpg
〇篆刻作家さんの多くは、保管する篆刻の印面保護のために「袴」というものを作るようですが、楽篆堂は不定形、楕円の自然石でという注文も多いので、家内が古布で作った巾着袋に入れて、為書きとともにお渡ししています。

ページ上部へ