口ベタだけど、仕事は早い。(篆刻:言訥敏行)

言訥敏行
運命の炭焼き職人・熊さんは、竹炭を作るのは好きだが、売ることに熱心ではない。 あちこちのフリーマーケットへ軽トラに積み込んで出店するが、彼の興味と熱意は、 行き帰りの荷台にいかに効率よく物が積めるかであって、商売ではない。 販売担当の奥方「マーヤさん」はやきもきするが、竹炭は増えるばかり。竹は太くて、 インテリアになる。湿気を取り、消臭する。割れたら燃料。ご希望の方、いませんか。 熊さんは、内装職人だった。関空の天井は俺が張った、という。その一部分だろうが。 兄弟の会社だから、大阪の倉庫に行っては、ありとあらゆる道具をいただいてくる。 内装前には解体もするから、我が家の土間や庭の椅子は、どこそこのレストラン出身 だったりする。水道の蛇口だけでも、10個以上ため込んである。おんぼろ古農家、 我が家の便利屋さん的存在として、我々の尊敬を一身に集めている。(あ、ヨイショ) 職人は、口ベタと決まっている。何かをしゃべり始めても、最後まで聞いた覚えが無い。 言いたいことは大体わかるから、問題もないのだが。竹炭を委託している店に テレビ取材が来た。熊さんも作家としてしゃべったが、番組にそういうカットはない。 篆刻は「言訥敏行」。言葉は訥々(とつとつ)としているが、行いは俊敏。こんな人って いるかなと、彫りながら思った昔の習作だが。竹やぶの中の熊だったとは、驚いた。
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