夜が、暗くした。(篆刻:夜)

夜
篆刻は「夜」。人が横になっている大と月だから、人々がすべて休息する時なのだが、 夜になっても祭事にいそしむこと、ともいう。さて、広告研究会のキャンプストア。 その合宿所になっているお寺には、階段の上にお堂があった。お金を置く聖域で、 一般の部員は立ち入り禁止とされていたから、誰も階段に登ろうともしなかった。 夜は、幹部が会計にいそしむ場所のはずなのだが。それだけでは、なかった、らしい。 1年生が緊張しながら過ごした夏の合宿が終われば、寝食をともにした同士だ。 「俺の腹巻をフンドシにして泳いだ」「打ち上げで、飲んだ酒を鯨のように吹いた」と 武勇伝が残り、仲間意識も生まれる。と同時に、実は・・・という噂も流れはじめた。 夜、あのお堂に、海岸にいた女の子が出入りしていた、という噂、なのだが。 美しい青春の思い出・キャンプストア、神聖で侵すべからざるお堂が、崩れた。 我々が進級して部の運営に当たることになって、まずキャンプストアをどうするか、 という議論になった。廃止と継続が対立したが、廃止派の広告研究に専心すべき という正論に、継続派は勝てるはずもない。キャンストの魅力だけで入部した数人は、 退部した。キャンストで親友となり、キャンストの店長と目されていたTも、去った。 陽光の下で輝くはずの彼らの青春を、いささか暗くしただろうことは間違いない。
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