忘れたいけど、忘れられない。(篆刻:忘)

忘
白川静先生が、大学紛争のときに、「何人たりとも私の学問を阻む権利はない」と、 ピケを物ともせず、自らの研究室に通い続けたのは、有名な話だが。 こっちは、私の大学での粗末なお話。4年後期の試験、世界経済史。ノート持込み可。 授業に出て、ノートもちゃんととっていたので、楽勝のはずだったが。そのノートを貸して 試験場で返してもらうはずの友人T(私の友人には、Tが多い)が、来ないのだ。 また遅刻か、と歯ぎしりしたが、遅刻も時間切れ。なすすべも無く白紙で提出する。 Tの行きつけの雀荘に行くと、彼がいて、麻雀の真っ最中。「おい、どうしたんだよ」 「お前こそ、何で試験場に来なかったんだよ」。やっと、自分が試験場を間違えたことに 気がついた。風邪で熱があったとはいえ、あまりに粗忽。就職が決まっていたが、 恥ずかしながら事情を話して、週に1回会社から授業へ通うことを許してもらった。 ところが、もうひとりドジがいて、レポート提出で救済され、かろうじて卒業できた。 しかし、もう忘れたはずなのに、試験場が分からない、そもそも出席日数が足りない、 とキャンパスで途方に暮れる夢を見る。自分のミスなら、夢と冷や汗で済むけれど。 学校が定めたカリキュラムでは卒業不可という、受験至上主義には亡国の予感。 篆刻は「忘」。「亡」は、死者の脚を曲げた形。曲げてレポートで救済、というお粗末。
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