大学時代の友人Tの息子さんは、工学部を出たエンジニアなのだが、競輪が趣味で、
親子で花月園競輪にも行ったという。前に書いた元電通のSさんも競輪が好きで、
私の父が花月園で丸裸になった話を楽しそうに聞いていた。競輪は動力が人間だから、
データによる予想を超えた、独特の面白さがあるらしい。私の小学校は花月園から
遠くない。ある子の筆箱には、短い赤鉛筆があふれていた。親が競輪の予想屋だった。
小学校には、予想屋の子もいれば、朝鮮の子もいた。私の家は丘の上にあったが、
向かいのB29が落ちたという崖下の窪地には朝鮮の人たちの集落もあった。
ガキ大将だった兄は小さい私をおぶって、下の子供たちとケンカで石を投げあった。
帰った家に、下の女ボスが仲間を引き連れて怒鳴り込んできた。石はお互いだが、
上の誰かがガラスを投げた、汚いではないかという抗議。敵ながら天晴れだった。
小学校では、給食費を滞納する子もいた。知恵遅れの子もいた。ケンカもあった。
しかし、いま言うような「いじめ」の記憶は、まったく無い。そして、それから、ざっと50年。
お互いの関係を、いじめという陰湿な方法でしか確かめられない子供がいるという。
篆刻は「互」で、縄を巻いた器の形。縄を交互に巻くことから、交互、相互の意味となる。
甲の縄、乙の縄があっての互い。徒競走でも順番がない妙な平等教育が、そうしたか。
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違いがあるから、互いがある。(篆刻:互)
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