躍りあがりたいような、涙。(篆刻:躍)

躍
私は友人から「メールの返事が速い、それだけ暇なのか、情報に飢えているのか」 と笑われる。確かにそうかもしれない。だから郵便が来るのも楽しみだ。 だいたい午前10時半前後。2階のこの部屋にも、郵便屋さんのバイクの音が聞こえる。 きょうも、その時刻だった。いつもはカミサンが取りに行くが、外出していたので、 私がポストを開けた。何通かの書状の上に、上品で美しい罫線のはがきがあった。 「古都の冬はことに冷える日々です。 このたび、平凡社を通して御著『篆からの贈りもの』いただきました。 印の姿もよく、また添えられたコピーの美しさ、感心しながら見せていただきました。 父の説が、あちこちに散りばめられ、それも楽しく拝読。 さっそく父の霊前におかせていただきました。ありがとうございます。御礼まで」   お名前は「津崎 史(白川静・長女)」だった。読みながら坂をあがり、庭に立っていた。 はがきを両手にはさんで、西の方角を拝んだ。躍りあがりたいようなよろこびに ひたりながら、涙がこぼれていた。篆刻は「躍」。『字統』によれば、翟(てき)は、 鳥が羽を動かして飛び立とうとする形。霊となられた白川先生は、どこにでも来られる。 いい加減な篆刻なら、そばでギロリと睨まれる。私の篆刻も飛び立たねばならない。
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